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zoom RSS 短編小説その日死刑が執行された1

<<   作成日時 : 2008/10/19 07:07   >>

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●20XX年11月X日。市立病院の一室。30歳の女性が、植物状態のまま横たわっている。母親・父親、そして医師・看護師がいる。医師は、筋弛緩剤の点滴を与えた。数時間後、女性の心拍数が停止した。安らかな眠りについた。

医師「ご臨終です。娘さんは、医者を目指していたようですね?」

母親「いいえ、違います。娘の夢は、この日に死を迎えることです」
母親は、号泣した。

●病院事務所。会計係が嘆いている。

会計係「あーあー、この女性の治療費だけで、1億円以上もかかっているぞー。これでは、赤字だよ。今年でこの病院は、破綻かなー」

●新宿・歌舞伎町で、通り魔殺傷事件が起きた。2人は現場で死亡。5人は病院で死亡した。1人が重体、6人が軽症を負った。

犯人は、社会の責任にして、自分を正当化している青年だ。自殺できずに、死刑願望があった。裁判員制度が導入され、その6カ月後、青年は早期に死刑判決を受けた。

5年後、最高裁まで争ったが、極刑が確定した。精神鑑定による心神耗弱状態は、一切拒否された。青年の生い立ちも動機も、一切認められなかった。

しかし歴代の法務大臣は、安易に死刑執行をしなかったようだ。自分のサイン1つで、人が死ぬ。恐怖から、署名捺印を拒否していた。

●朝、都内の刑務所。4畳半。青年は、7時に起床した。ドアに向かって正座をしている。廊下を歩く、看守の足音が聞こえる。青年の独房を通り過ぎ、隣の房のドアの開く音が聞こえた。

死刑執行の日は、その日の朝に知らされる。隣室の死刑囚が、連れ去られた。この死への恐怖は、毎朝続く。

ここは、自殺防止房。監視カメラが、青年を見つめている。冷暖房がない。窓が開いていても、風通しが悪い。汗水が流れる。夜9時以降は、満足に眠れない。

死刑囚には、特に労役もない。仕事が嫌いな人には、都合のよい生活だ。独房では、暇すぎる。退屈だ。トラブルを避けるため、死刑囚同士、顔を合わせることはない。孤独との戦いでもある。

それでも1食500円、死刑になるまで毎日3食、税金で食べさせてもらえる。両親からの資金提供もあり、そのお金でおやつなどを食べていた。面会は、生涯1回だけだった。


●その日死刑が執行された2

青年に、精神異常が見られるようになってきた。拘禁反応だ。カゼを引いても、精神錯乱に陥っても、税金で診察してもらえる。

仏教徒の教誨師(きょうかいし)が、死刑囚の心の悩みを聞く。死刑囚にとっては、唯一の救いの存在だ。心が休まる。しかし、犯罪に対する反省の色は、見られない。

宗教と政治は、分離されている。ゆえに、教誨師はボランティアだ。法務省は、交通費は捻出してくれる。だが教誨師は、加害者と面会しても、被害者の苦悩を知ることはない。

仮に死刑囚が出所できた場合、保護司が生活全般の面倒を見てくれる。保護司の国家予算は、年間58億円のようだ。しかし、被害者のために何ら拠出することはなかった。

●朝、その時がきた。青年は、ドアを出て刑場に向かった。手が震えている。動悸・息切れが荒い。死に行く廊下を歩いている。

教誨師「あなたの夢は、死刑になることでしたね?」

青年、両ヒザをついて、泣き崩れた。身体が、ブルブルと震えている。
青年「死に、たくない…」

死刑囚に、夢も希望も未来もない。死刑執行日まで、死を迎えることしかない。階段を上がり、目隠しがされた。首にロープが巻かれた。

刑務官が3人いる。スイッチが3つある。その中の1つだけが、足元の踏み板が外れるようになっている。3人の刑務官には、本当のスイッチは知らされていない。

スイッチが押された。踏み板が外れた。青年の身体は、落下した。首の骨が折れ、身体がケイレンをしている。呼吸が停止した。心臓が停止した。15分後、息絶えた。

医師「20XX年11月X日。ご臨終です」。この日、2人の人が死んだ。青年と入院していた女性だ。

刑務官にとって、刑場での仕事は重圧である。家族や同僚にも、死刑執行のことを口外することはなかった。酒場で、自分の心の中で葛藤するしかなかった。もう、飲むしかない。

遺族は、遺体の引き取りを拒否した。税金で、簡単な葬儀が行われた。霊園で、無縁仏として遺骨が納められた。この死刑囚1人に対して、刑務所では2000万円以上の税金が使われた。

その後教誨師は、命日になると、執行された死刑囚の霊を寺院でとむらうのであった。7人の被害者の霊を、とむらうことは決してなかった。

●その日死刑が執行された3

●この日、女性が死んだ。2年前に、尊厳死法が成立した。親族の申し立てで、裁判所から執行命令が許可された。医師が、筋弛緩剤を投与した。死刑執行と、何ら変わりはない。

通り魔事件で、1人だけ重体の被害者がいた。その女性だ。事件から10年、植物状態だった。病院で寝たきり状態だ。治療費や生活費など、1億円以上も親族は負担をした。

刑務所の生活以上に、本人も親族も地獄のような毎日だった。病院にとっても、利益にならない迷惑な患者だ。法務省も厚生労働省も、被害者には何も支援はしてくれない。

●地方裁判所。母親が裁判員として、審理をしている。殺人事件だ。母親は、迷うことなく「死刑判決」を下した。この母親は、3年間に5人の被告人に対して死刑判決を下した。

死刑執行者は刑務官ではなく、その「4親等内の遺族」13人に、執行スイッチを押す権限を与えた。一身専属的であり、相続権はない。

13人全員がスイッチを押さなければ、被告人は終身刑となる。13人全員が死亡すれば、それもまた終身刑となる。執行するかしないかは、遺族の選択に任された。

但し、遺族に「10億円」の損害賠償を支払うことができれば、「終身刑」に代えることができる。50万人以上の死刑反対の署名を集めることができれば、終身刑に代えることもできる。

捜査費用、裁判所の訴訟費用、遺族への慰謝料・治療費、刑務所での生活費、本人の治療費は全て自己負担だ。刑務所での食費も支払えなかったら、餓死するだけだ。自殺は認めない。

生きたければ、刑務所内で過酷な労働をするしかない。知恵を絞って、金銭を稼ぐしかない。これからの受刑者は、税金をもって刑務所で、気楽に過ごすことはできなくなった。

受刑者の反省。それは、国家に対して多額の税金・損害賠償を納めさせることであった。それが、母親の仕事であり、全ての犯罪者への復讐であった。
                              完




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